
司法書士事務所の法人化とは?メリット・デメリットや設立手続き、個人事務所との違いを徹底解説
司法書士としてのキャリアを考える上で、「法人化」という選択肢に興味を持つ方も多いでしょう。
本記事では、司法書士事務所の法人化について、メリットとデメリットをはじめ、設立条件や手続きの流れなどを詳しく解説していきます。
個人事務所との違いや、司法書士事務所の法人化後に欠かせない集客についても具体的に解説するため、今後の事務所の経営を見据えて、ぜひ最後までご覧ください。
司法書士の法人化とは?

司法書士の法人化とは、複数の司法書士が共同で業務を行うために「司法書士法人」という法人格を取得し、組織として事務所を運営することを指します。
司法書士法人は、複数の司法書士が共同で登記業務や裁判所提出書類の作成などの業務を行えるのが大きな特徴です。
そのため、組織的な対応や人員体制の構築がしやすくなり、業務の幅や対応力を広げることができます。
なお、法人化は任意であり、すべての司法書士が法人を作る必要はありません。司法書士の法人化にはメリットとデメリットがあるので、それぞれを踏まえた上で慎重に検討することが重要です。
司法書士事務所を法人化するメリット

司法書士事務所を法人化することには、個人事務所にはないいくつかの大きな利点があります。ここでは代表的なメリットを4つ紹介します。
社会的信用力がアップする
司法書士法人は法務局に登記されているため、名前や所在地が公的に記録され、事務所としての信頼性が高まります。
特に大手企業や金融機関は、登記された法人に対して信頼を寄せる傾向があり、司法書士法人は契約の際に有利になることがあります。
採用・人材育成がしやすくなる
司法書士事務所を法人化することで、組織体制を整えた上で、人材の採用や育成をすることが可能になります。
司法書士補助者や事務スタッフなど、チームで業務を行う環境を整備しやすくなるのはもちろん、教育や業務の引き継ぎも、あらかじめ計画を立てて進めやすくなります。
業務の分業・効率化ができる
個人事務所では、基本的にすべての業務を一人の司法書士が対応しなければなりません。
一方、法人化した場合は、複数人で業務の分担が可能になるので、より効率的な運営が可能です。
司法書士同士で案件を分担したり、補助者に事務作業を任せたりすることで、全体の処理スピードと品質の向上が見込めます。
個人事務所よりも節税できる場合がある
司法書士事務所を法人化すると、給与所得控除や経費の計上範囲が拡大するなど、個人よりも税務上有利になるケースがあります。
たとえば、年収700万円の司法書士であれば、約120万円の控除を受けられるケースもあります。
さらに、配偶者や家族に役員報酬を支払うなどして所得を分けることで、所得税の負担を抑えることも可能。
ただし、節税効果は状況によって異なり、専門的な知識が必要なため、専門家のアドバイスを受けながら検討しましょう。
司法書士事務所を法人化するデメリット

法人化にはメリットがある一方で、当然ながら注意すべきデメリットも存在します。
ここでは、法人化に伴って発生する代表的なデメリットを4つ紹介します。
設立と運営にコストがかかる
法人を設立する際には、登録免許税や定款認証手数料、その他の登録費用など、まとまった初期費用がかかります。
また、法人としての運営においても、税理士などの専門家への依頼料や、毎年の決算処理に伴う費用が継続的に発生します。
法人事務所は、個人事務所よりも全体的なコストの負担が大きくなる点には注意が必要です。
決算・税務処理などの事務が煩雑になる
司法書士事務所を法人化すると、会計処理や決算報告、法人税の申告など、税務に関する手続きが複雑化する点はデメリットです。
こうした手続きを正確に行うためには、税理士などの専門家に依頼する必要がある場合も多く、事務負担とコストの両面でハードルが上がります。
代表社員に対する責任や制限が大きくなる
法人の代表社員は、業務執行責任だけでなく、会社法上の義務や責任を負う立場となります。
たとえば、業務上の過失によって損害が発生した場合には、個人としての責任を問われる可能性もあり、プレッシャーは個人事務所以上と言えるでしょう。
代表社員になると、自分一人では判断できないことも増えるため、業務の自由度が下がることを理解しておく必要があります。
たとえば、会社法第429条では、代表社員が職務を行うにあたり悪意または重大な過失によって他人に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任があると定められています。
このように、法人代表者は重大な責任を伴う立場であることを理解しておくことが大切です。
意思決定に時間がかかり自由度が低くなる
個人事務所の場合、代表者自身の判断一つで素早く決定ができます。
一方、司法書士法人の場合、複数の社員で意思決定を行う必要があり、スピード感に欠ける場合があります。
特に業務方針や戦略の変更を迅速に行いたい場合、法人化によって自由度が制限されることがある点に注意しましょう。
司法書士が法人化する場合の設立条件

司法書士事務所を法人化するには、社員の資格や事務所の構成など、法律で定められた条件を満たさなければなりません。
司法書士法人の設立については、「司法書士法第32条」などで明確に定められています。
社員の資格要件、法人名の規定、目的の制限などが詳細に記載されています。
具体的な内容を事前に確認し、法令に沿った準備を進めましょう。
ここからは、司法書士法人を設立するためのこうした基本条件について解説します。
必要書類
司法書士法人の設立にあたっては、以下のような書類を準備・提出する必要があります。
- 定款
- 司法書士法人社員の資格証明書
- 特定社員の資格証明書
- 総社員の同意書(代表社員を定める場合)
- 印鑑届
- 個人印鑑証明書
こうした書類を、法務局に提出することで法人登記手続きが進みます。
司法書士法人設立の登記が完了したら、登記事項証明書を提出し、司法書士会へ届出をしなければなりません。
「登記から届出」の順序はわからなくなりがちなので、覚えておきましょう。
司法書士法人の名称ルール
司法書士法人の名称には、いくつかの決まりがあります。具体的には、以下のようなルールを守る必要があります。
- 名称中に「司法書士法人」という文字を含めること
- 同じ所在地の別の司法書士法人や、司法書士事務所と名称が完全に同一でないこと
- 公序良俗に反しないこと
これらの名称ルールは、「司法書士法第27条」で定められています。
具体的には、同一の所在地において類似または同一名称の法人は設立できず、法人名には「司法書士法人」という語句を必ず含めることが義務づけられています。
また、名称を考える際には、業務内容や事務所の理念が伝わりやすく、信頼感のあるネーミングが望ましいです。
略称で親しみやすさを出す工夫も効果的です。
司法書士が法人化する手続きの流れ

司法書士が法人化を進める際には、次のような手順を順番に進めていく必要があります。
- 社員(構成員)の決定
- 定款の作成
- 必要書類の準備
- 登記申請の実施
- 司法書士会への届出
- 関連手続の実施
以下からは、この順に沿って、準備をそれぞれ見ていきましょう。
1.社員(構成員)の決定
従来、司法書士法人の設立には2名以上の司法書士が社員(構成員)として必要でしたが、2020年8月に法律が改正され、1人でも法人化できるようになりました。
ただし、業務を分担したり業務量が増えたときの対応を考えると、2人以上で設立したほうが実務上有利です。
そのため、構成員の人数については慎重に判断する必要があります。
2.定款の作成
次に、法人の基本ルールである「定款」を作成します。
定款には、法人の名称・所在地・目的・社員の氏名などを必ず記載する必要があります。
3. 必要書類の準備
前項で解説した各種書類(登録証明書、印鑑届書など)を整えます。
4. 登記申請の実施
すべての書類が揃ったら、主たる事務所所在地を管轄する法務局で「司法書士法人設立登記申請」を行います。登記が完了すると、法人としての活動が可能になります。
5.司法書士会への届出
司法書士法人設立の登記が完了したら、司法書士会へ届出が必要です。忘れずに届出をしましょう。
6.関連手続の実施
設立登記後は、必要に応じ、下記のような手続きを進める必要があります。
- 関係機関への法人設立届出(税務署・年金事務所など)
- 銀行口座開設
- 社会保険の手続き(従業員がいる場合)
- 各種名義変更(電話、郵便物、名刺など)
また、現在の顧客との契約が個人名義になっている場合には、法人名義に変更する契約書の再締結が必要になる場合があります。
顧客に対しては、法人設立の報告書や契約内容変更の同意を得る手続きが必要になるケースもあるため、丁寧な説明と書面対応を心がけましょう。
こうした作業を漏れなく進めることで、スムーズな法人運営が始められるので、事前にチェックしておきましょう。
司法書士が法人化する際の登記費用の目安
司法書士事務所を法人化する際には、設立登記に関する費用が発生します。
以下からは、司法書士法人の設立登記にかかる主な費用および目安を紹介します。
登録免許税
司法書士法人の設立登記には、登録免許税が6万円かかります。
登録免許税は法務局に納める税金で、法人の資本金にかかわらず一定です。
その他の実費
登録免許税のほかに、以下のような実費も発生します。
- 印鑑作成費用:約1万円前後〜(法人実印・銀行印・角印など)
- 印紙代:書類によって必要な場合あり(定款添付書類など)
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の取得費用:約600円/通
- 印鑑証明書の取得費用:約450円/通
一般的な起業などに比べると、比較的少ない費用で法人化が可能にはなりますが、事前に必要な費用は頭に入れておくと良いでしょう。
司法書士法人化に関するよくある誤解

ここからは、司法書士法人化に関するよくある誤解について、解説していきます。
多くの方が誤解している内容なので、正しい知識を頭に入れておきましょう。
誤解1:司法書士法人は1人でも簡単に設立できる
2020年の法改正により、司法書士法人は1人でも設立できるようになりました。
従来の2名以上が必要であった条件が撤廃されたことで、法人化のハードルが下がったといえます。
ただし、法人化のメリットを十分に活かすためには複数名体制が望ましいとされています。
分業体制の構築や業務の効率化、規模拡大を目指すには、やはり2人以上での運営が有利です。
「1人でも簡単に法人化できる」と安易に考えていると、設立後の運営で思ったような成果が得られない可能性が高くなるので、業務量やコスト、組織化の意義などをよく考え、慎重に検討しましょう。
誤解2:法人にしただけで仕事が増える
法人化することで、信頼感が高まり、顧客に好印象を与えやすくなりますが、それだけで仕事が増えるわけではありません。
あくまで顧客の依頼は、司法書士自身の対応力や営業活動・集客戦略の結果として得られるもので、努力なしに仕事を獲得することは不可能です。
法人化は信頼感アップという「きっかけ」にはなりますが、仕事の増加には日々の発信や顧客対応、地域での認知拡大といった集客努力が本来は欠かせないものです。
誤解3:法人化すれば税金がすごく得になる
前提として、司法書士法人は一定の条件下では節税効果が見込めます。
たとえば、所得の分散や役員報酬の設定、経費の活用などによって税負担を軽減できるといったケースです。
しかし、その一方で、法人化に伴って発生する人件費やその他の経費などで、支出が増加することには注意しなければなりません。
事業規模や利益が見合っていないと、個人事務所より負担が大きくなり、かえって損をしてしまう可能性があります。
「法人=節税」というイメージだけで判断せず、自身の収支や事業計画に照らして慎重に検討しましょう。
誤解4:法人化しないと信用されない
たしかに法人という形態は「組織的に運営されている」という印象を与えるため、一定の信頼性を演出しやすい面があります。
しかし、実際には多くの個人事務所の司法書士が、地元で高い信頼を得て活躍しています。地域密着の丁寧な対応や、専門性の高さは、法人か個人かを問わず評価されるポイントです。
そのため、「法人でなければ信用されない=仕事が来ない」ということは決してありません。漠然としたイメージで体裁を整えようとするのではなく、自身のスタイルに合った運営を選びましょう。
誤解5:法人にすれば何でもできるようになる
司法書士法人にしても、扱える業務範囲は個人の司法書士と同様、司法書士法の定める範囲に限られます。
つまり、弁護士のように訴訟の代理を行ったり、行政書士の業務を無制限に行うことはできません。
法人化しても取り扱える業務の範囲は変わらないため、法律で定められていない業務を引き受けると違法となる危険があります。
法令遵守を徹底し、正確な理解のもとで法人運営を行いましょう。
司法書士が法人化で成果を残すために集客施策が重要な理由

ここからは、司法書士が法人化で成果を残すために集客施策が重要な理由を、具体的に掘り下げてみていきましょう。
法人化後、自動的に依頼が増えるわけではないから
司法書士法人にしたからといって、何もしなくても仕事が増えるわけではありません。
法人化は、仕事を増やすための準備段階にすぎないという意識が必要です。
そこから依頼を得るためには、地域での活動やホームページでの発信などを継続して行い、依頼者から信頼される関係をつくることが大切です。
特に競争の激しいエリアでは、集客戦略の有無が業績に大きな差を生みます。
集客チャネルを複数もつことが安定した経営につながるから
現代の司法書士業務では、依頼経路の多様化が進んでおり、従来の紹介や地域ネットワークだけでなく、Web検索やSNS、マッチングサービス経由で広域から依頼が入るケースも増えています。
こうした中で、一つの集客チャネルに頼るのはリスクが高くなり、集客効果も限定的なものになってしまいます。
特に、法人化のタイミングで複数の集客チャネルを整備することで、経営の安定性がぐっと高まるでしょう。
たとえば、
以下のようなチャネルを併用するのが理想的です。
- 自社ホームページでのSEO対策
- ブログやコラムによる情報発信
- SNSでの認知拡大と信頼感醸成
- 士業マッチングサイトの活用
- 地域の異業種交流会やセミナーでの営業活動
Web集客は司法書士法人にとって強力な武器になるから
Web集客は、司法書士法人が効率よく見込み客にリーチするための強力な手段です。
特に、ホームページを設置し、SEO対策を活用すれば、地域や分野を問わず幅広い層の顧客にアプローチできます。
さらに、法人の信頼感とWebの情報発信を組み合わせることで、検索ユーザーに対する説得力が増します。
たとえば「相続登記 司法書士 法人」といった検索で自社サイトが上位に表示されれば、依頼者から選ばれる可能性が高くなります。
法人化のメリットを最大化するには、Web集客と連動した広報戦略が不可欠といえるでしょう。
司法書士法人化に関するよくある質問

続いて、司法書士法人化に関するよくある質問を紹介します。
ここでしっかり疑問を解消して、司法書士法人化に備えましょう。
司法書士法人は一人でも設立できる?
2020年の法改正により、現在の制度では、一人でも司法書士法人を設立できます。
ただし、分業による業務の効率化や、急な対応に備える点から考えると、複数人で運営したほうが実務上は有利です。
※詳しくは「誤解1:司法書士法人にすれば1人でも設立できる」の項目をご覧ください。
司法書士法人の方が受けられる仕事が多くなる?
結論からいうと、業務範囲そのものは個人でも法人でも変わりません。
ただし、法人のほうが組織的な対応力をアピールしやすいため、企業や金融機関などからの依頼が増えやすい傾向はあります。
そのため、より大型の依頼などを受けられる可能性も高くなるという意味で、仕事が多くなるケースもあるでしょう。
※詳細は「誤解2:法人にしただけで仕事が増える」もご確認ください。
個人事務所開業後に法人化することはできる?
もちろん、個人事務所開業後に法人化することは可能です。
実際、多くの司法書士はまず個人事務所として開業し、ある程度の実績と体制が整ってから法人化しています。
たとえば売上が安定してきたり、スタッフの人数が増えたときは、法人化を考える良いタイミングといえます。
売上が安定してきて、年間1,000万円を超えるようになったり、補助者やスタッフを2名以上雇うようになった場合は、法人化による組織的な運営や節税の効果が実感しやすくなります。
また、登記や相続業務などで複数案件を同時に回す機会が増えてきたと感じたときも、法人化の検討時期といえるでしょう。
個人か法人かによって年収は変わる?
法人化したからといって年収が自動的に増えるわけではありません。収益は、案件数や経営規模、集客力に左右されます。
たとえば、自分一人でフットワーク軽く動きたい方は、コストを抑えながらガンガン働いていく個人事務所。
スタッフを雇って業務を拡大していきたい方は、法人化によって組織体制を整えつつ事務所を大きくしていける法人事務所が適しているといえるでしょう。
一人で柔軟に動ける個人事務所と、組織でスケールを狙う法人では、戦略も働き方も異なります。
どちらが向いているかは、あなたの事業ビジョン次第です。
司法書士法人化後はWeb集客を活用しよう
本記事では、司法書士の法人会について、メリット・デメリット、設立条件とよくある誤解などを解説してきました。
司法書士事務所を法人化しても、依頼が自然と増えるわけではありません。法人の信頼性を活かすには、積極的な集客活動が欠かせません。
中でもWeb集客は、法人としての専門性や信頼感を広域に伝える強力な手段です。ホームページやブログを通じて、実績や対応業務を発信すれば見込み客との接点をつくれます。
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