
司法書士の経営は厳しい?収入の現実や成功に導くポイントを解説
司法書士の平均年収は、一般的な会社員より高い水準にあります。
しかし、独立開業すれば誰もが高収入を得られるわけではありません。
売上が思うように伸びず、「何から改善すべきかわからない」「集客や差別化といった経営戦略まで手が回らない」など、先行きの見えない不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、多くの司法書士が陥りがちな経営の失敗理由を解説します。
司法書士の経営は厳しい?独立後の収入の現実

厚生労働省が運営する「job tag」によると、厚生労働省が2024年7月に日本全国78,679事業所を対象におこなった「令和6年賃金構造基本統計調査」に基づいて算出された司法書士の年収は765.3万円です。
一方で、国税庁が2023年12月31日時点の給与所得者6,068万人を対象におこなった「令和5年 民間給与実態統計調査」によると、一般的な正社員の平均年収は530万円であると判明しています。
比較すると、司法書士の年収は高い水準にあります。
しかし、司法書士の年収の内訳を見ると、働き方や地域によって大きな差があるのが現実です。
たとえば、日本司法書士会連合会が2020年9月に司法書士会員22,726名を対象におこなった「第二回司法書士全国調査」によると、勤務司法書士と開業司法書士の年収の差は、以下の表のようになります。
司法書士の勤務体系 |
最も多い年収の層 |
---|---|
開業司法書士 | 1,000万円から4,999万円未満 |
勤務司法書士 | 300万円から400万円未満 |
「事業収入」がおおむね、今回調査の「売上(収入)金額」に該当するものと考えられる。回答数の多い順でみると、最も多かった「1,000〜4,999 万円」が 894 件(35.0%)だった。
引用元:日本司法書士会連合会「第二回司法書士全国調査」
500~600 万円未満 103
引用元:日本司法書士会連合会「第二回司法書士全国調査」
また、厚生労働省が2024年7月に日本全国78,679事業所を対象におこなった「令和6年賃金構造基本統計調査」に基づいて、「job tag」で算出された地域別の司法書士の年収は、東京都や神奈川では一定の高となっていることがわかります。
東京都 934.4万円
引用元:職業情報提供サイト(job tag)「司法書士」
神奈川県 509.9万円
引用元:職業情報提供サイト(job tag)「司法書士」
データからは、地方によるものの、独立開業をすれば高収入を得られる可能性があることが読み取れます。
しかし、誰もが成功するわけではありません。
厳しい競争を勝ち抜くためには、従来の登記業務とは異なる専門性を磨き、継続的な営業努力を積み重ねるべきであるとうかがえます。
司法書士事務所の経費・コスト構造
司法書士の独立後の収入を考えるうえで、支出の実態を把握することが重要です。
経費は「固定費」と「変動費」に分かれます。
具体的な司法書士の経費の例は、以下のとおりです。
経費 |
具体例 |
---|---|
固定費 | 人件費、事務所の家賃、司法書士会費、登記システムや会計ソフトの利用料など |
変動費 | ホームページ制作やチラシ作成などの広告宣伝費、交通費、書類の郵送費など |
特に経営を圧迫しやすいのは、人件費です。
日本司法書士会連合会が2020年9月に司法書士会員22,726名を対象におこなった「第二回司法書士全国調査」による勤務司法書士の最も多い年収の層から判断すると、正社員を1人雇用する際には年間300〜400万円以上の人件費が発生すると推定されます。
また、都市部や駅に近い立地では、事務所の家賃も高額になりがちです。
司法書士には、売上の変動幅が大きい業界特性があります。
人件費や事務所の家賃といった固定費の割合が高いと、売上の少ない月に経営が赤字になるリスクが高まる点に注意が必要です。
司法書士が経営に失敗する6つの理由

司法書士が経営に失敗する主な理由は、以下の6つです。
- 営業・マーケティング知識の欠如
- 差別化戦略・専門性の不足
- 経営者としての視点の欠如
- 人材マネジメント施策の欠如
- 人脈構築の失敗
- 信頼性管理・クレーム対応力の欠如
専門知識が豊富なだけでは、激化する競争の中で事務所経営を軌道に乗せることは困難です。
以下からは、司法書士の経営において失敗要因となる理由それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
営業・マーケティング知識の欠如
顧客獲得のスキルが不足している司法書士は少なくありません。
事務所を構えて待つだけの「待ちの姿勢」では、新規顧客の獲得は難しいもの。
経営が安定しない司法書士には、以下のような特徴があります。
- 特定の紹介元に依存し独自の集客ルートを持っていない
- 紹介元の都合で仕事が急に途絶えるリスクを抱えている
- WebサイトやSNSなどを活用した情報発信ができていない
必要なのは、法律の専門知識だけではないことがわかります。
自ら仕事を生み出すためには、営業マーケティングスキルを磨かなければならないのです。
差別化戦略・専門性の不足
司法書士業界でも価格競争が激化しています。
明確な強みがない司法書士は、経営が厳しくなりがちです。
過剰な価格競争に巻き込まれてしまうと、次のような問題が起こります。
- 低価格を売りにしすぎて、十分な利益を確保できない
- 利益を出すために多くの案件をこなす必要に迫られる
- 業務の手間から案件数に限界があり、薄利多売に陥る
価格競争に巻き込まれず、安定した経営をおこなうことが重要です。
経営者としての視点の欠如
「優れた実務能力」と「事務所を安定させる経営能力」は、別のスキルです。
司法書士の多くは優れた実務能力を持っているもの。
しかしながら、経営者としての視点が不足しているために事務所経営を失敗してしまうのです。
経営者としての視点が欠けている司法書士の特徴として、以下3点が挙げられます。
- 売上・経費・利益を把握していない
- どんぶり勘定により資金繰りが悪化している
- 長期的な視点による事業戦略を立てていない
場当たり的な経営は、失敗の典型的なパターンです。
日々、数字を常に意識して計画的に事務所運営を行うことが、経営の安定化につながります。
人材マネジメント施策の欠如
司法書士においても事業の拡大には、人材の確保や育成が不可欠です。
しかし、「採用がうまくいかない」「育成ができない」「スタッフがすぐ辞める」という問題に直面している司法書士も少なくありません。
司法書士業界において「うまくスタッフが管理できない」という場合、次のようなことが起こっているものです。
- 意識やリソース不足で、きちんと採用活動ができていない
- スタッフの離職を防ぐメンタルサポートやケアができていない
- 場当たり的な指導で、体系的な人材育成ができていない
司法書士の経営の成功には、優秀な人材に長く活躍してもらう計画的な人材育成が必要です。
人脈構築の失敗
司法書士にとって人脈の構築は、仕事を紹介してもらうための重要な基盤です。
人脈構築を怠ると、経営は困難に陥りやすくなります。
司法書士の人脈構築における主な失敗パターンは、以下のとおりです。
- 日々の業務に追われ、研修会や交流会に参加していない
- 専門性や提供価値を顧客にアピールできていない
- 同業者や他士業との関係が一時的なものに終わっている
特に独立当初は、自らの名前と顔を売る地道な活動が不可欠です。
人脈は、継続的に信頼を積み重ねることによって構築されます。
つまり、事務所経営を長期的に安定させる基盤となるのです。
信頼性管理・クレーム対応力の欠如
司法書士である以上、信頼を損なってはなりません。
不適切な言動や、間違ったクレーム対応をしてしまうと、事務所の評判が下がってしまいます。
悪い評判が広まると、既存の紹介元を失うことにもつながりかねません。
信頼を失う司法書士の特徴として、次のような点が挙げられます。
- 約束を守らず、顧客への説明が不足している
- 業務上のミスに気づけず、速やかに修正しない
- クレーム発生時の初動が遅く、再発防止策を立てない
司法書士は法的手続きを扱う専門職のため、一度の対応ミスが長期的な信頼の失墜につながるおそれがあります。
日頃から誠実な業務を徹底し、信頼を積み重ねることが重要です。
司法書士の経営を成功に導く6つのポイント

司法書士の経営を成功に導くポイントとして、以下の6つが挙げられます。
- 経営ステージごとに経営理念と事業計画を柔軟に見直す
- 専門性を高めて差別化戦略を実行する
- 人的ネットワークを構築する
- IT導入による業務効率化、デジタルマーケティングを行う
- 地域社会と積極的な関わりを持つ
- 経営コンサルタントを雇う
司法書士を取り巻く環境が変化する現代では、資格取得時の知識や従来の登記業務だけで成功し続けることは困難です。
経営を成功に導くポイントについて、具体的に見ていきましょう。
経営ステージごとに経営理念と事業計画を柔軟に見直す
経営理念は、司法書士事務所の存在意義と社会への提供価値を示す羅針盤となります。
また、事業計画は経営理念を実現するための具体的な道筋を示すものです。
経営理念や事業計画は一度立てるだけではなく、経営ステージが変わるごとに見直しましょう。
事務所の経営ステージごとに取り組むべき戦略内容の例は、以下のとおりです。
経営ステージ |
取り組むべき戦略内容 |
---|---|
開業期 | 認知度を高め、資金の安定に注力する |
安定期 | 収益構造を見直し、専門性を高める |
拡大期 | 人材育成を進め、分業の仕組みを構築する |
開業当初の生存戦略から拡大期の組織運営まで、各段階で求められる戦略は異なります。
専門性を高めて差別化戦略を実行する
司法書士事務所の成功には、同じ地域の競合の中から「選ばれる理由」を打ち出す差別化戦略が重要になります。
従来の登記業務だけでは、他の事務所との差別化が困難です。
将来性のある分野で特化していくことが、今後は求められます。
たとえば、2024年4月の相続登記義務化によって相続関連業務の需要が拡大する傾向にあります。
相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
(1)と(2)のいずれについても、正当な理由(※)なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。
引用元: 東京法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始) ~なくそう 所有者不明土地 !~」
また、超高齢化社会を背景に、成年後見や民事信託、死後事務委任といった財務管理業務も将来性が高い分野として注目されています。
従来の司法書士業務の枠を超えて、経営コンサルティングや専門的なアドバイザリー業務などを行う事業所もあります。
高い専門性があれば、質の高いサービスが提供できるようになるのです。
ワンマン依存とならないように注意
専門性を高めて差別化を図る際には、「ワンマン経営」に陥らないように注意しましょう。
代表者に頼り切った業務体制では、代表の不在や体調不良、引退などにより業務全体が止まってしまう可能性があるからです。
ワンマン経営を回避する対策として、以下の3つが挙げられます。
- 業務プロセスのマニュアル化
- 後継者や専門スタッフの育成
- 組織全体への専門性の共有
特定のスタッフに依存せず、誰が対応しても仕事が回る仕組みを整え、長く安定して続けられる経営体制を築くことが大切です。
人的ネットワークを構築する
司法書士は、顧客の多様な相談に対応できなければなりません。
顧客の多様な相談に対応するためには、自分ひとりの能力だけでは限界があります。
単独では解決困難な案件でも、他士業や他業種の専門家との連携により、解決できることも。
人的ネットワークの構築により得られる効果の例は、以下のとおりです。
連携先 |
連携分野 |
得られる効果 |
---|---|---|
税理士 | 相続案件 | 税務相談を含む総合支援 |
不動産業者 | 不動産取引 | ワンストップサービスの実現 |
弁護士 | 企業法務 | 高度な法的問題に対応 |
人的ネットワークの構築がしたければ、自治体主催のセミナーや地域のイベントへ参加してみましょう。
リピート・紹介を狙う
人的ネットワークを広げることは、継続的に紹介を受けられる関係づくりにつながります。
司法書士の仕事は、広告よりも口コミや紹介からの依頼が中心。
専門的な実務力と誠実な対応の両方で信頼を積み重ね、紹介を新しい依頼やリピーターへとつなげていく工夫が必要です。
紹介客をリピーターに変える取り組みの例は、以下のとおりです。
- 相談時に専門用語を避けてわかりやすく説明する
- 質問や懸念事項へ素早く対応する
- 手続き完了後も定期的に状況を確認する
- 関連する法的リスクや今後の注意点について助言する
司法書士の業務では、一度きりの案件で終わらせず、依頼者との間に長期的な信頼関係を築き、次の依頼につなげていく視点が重要です。
IT導入による業務効率化、デジタルマーケティングを行う
司法書士がITを導入することは、事務処理の効率化による業務時間の短縮と、ホームページやSNSを活用した集客力の向上という二つの側面から、事務所経営を支える効果があります。
司法書士におけるIT活用の具体例は、以下のとおりです。
- 書類作成を自動化し、事務作業の負担を削減
- タスク管理ツールで業務の抜け漏れを防止
- オンライン面談や電子契約で業務の迅速化
- ホームページのSEO対策で潜在顧客の発掘
- SNSやブログを活用した情報発信による認知度の向上
- ニュースレター発行による専門性のアピール
司法書士がITを活用すれば、業務効率化によって時間と人材などのリソースを確保できます。
そのうえでデジタルマーケティングを取り入れることで、従来の人脈や地域活動だけでは接点を持てなかった潜在顧客にも、司法書士業務の価値や専門性を広く伝えることができます。
このようにデジタルマーケティングは、紹介や口コミに加えて現代の司法書士にとって欠かせない集客手段となるのです。
地域社会と積極的な関わりを持つ
司法書士が安定的に顧客を獲得するためには、地域の方々から「身近で頼れる法律家」としての地位を築くことが必要です。
そのための具体的な活動には、次のようなものがあります。
- 地域の商工会議所や各種団体へ積極的に参加する
- 自治体や地域包括支援センターが主催する無料相談会に協力する
- 地域住民を対象とした相続や後見制度に関するセミナーを開催する
このような地域密着の取り組みは、一時的な広告による集客とは違い、住民からの継続的な信頼につながります。
結果として、長期的に安定した顧客基盤を築くことが可能になるのです。
特に、高齢化が進む地域では、相続や成年後見などの需要が定期的に高まりがち。
地域社会への貢献が、事務所経営の安定化につながっていくのです。
経営コンサルタントを雇う
経営コンサルタントを活用すれば、経営課題を第三者の視点で分析し、分析結果に基づいた具体的な戦略を得ることができます。
司法書士にとって経営コンサルタントを利用するメリットは次のとおりです。
- 本業に集中しながら事務所経営の改善を進められる
- 財務状況や業務効率、集客戦略などを客観的に検証できる
- 売上向上や組織改善に向けた戦略の立案と実行を支援してもらえる
特に司法書士業界に精通したコンサルタントであれば、業界特有の成功事例を理解しているもの。
したがって、実務に直結する具体的な助言を受けることができます。
一方で、業界事情に不慣れなコンサルタントを選ぶと、的外れな提案やコスト負担のリスクが起こる可能性があるという点には注意が必要です。
失敗を避けるためには、事務所として達成したい目標をはっきりさせましょう。
そのうえで、司法書士業界の知識と経験を十分に持つコンサルタントを選ぶことが重要です。
司法書士の経営に関わるご相談はドットアンドノードまで

今回は、司法書士の経営において失敗につながりやすい要因と、成功に必要な具体的な取り組みを解説しました。
独立開業した司法書士は、一般的に年収が上がる傾向にあります。
しかし、営業力や差別化の不足、経営者としての視点が欠けていると、売上が思うように伸びないケースもあります。
競争が激しい市場で成果を出すには、従来の登記業務にとどまらず、自分の専門分野を深めることが欠かせません。
さらに、ITを導入してデジタルマーケティングを活用すれば、潜在顧客への認知拡大や新規獲得の機会を広げることができます。
一方で、司法書士は日々の書類作成や登記申請に追われ、集客の仕組みづくりや組織体制の整備まで手が回らない場合が少なくありません。
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